計算規則の理解

(昨日の「思考の期間」の続きは、後日書きます。)
 
分数の扱いとか、正負の数の扱いとか、解の公式とか、算数・数学には、いろいろな計算のやり方
(以下「計算規則」と書きます)がある。
そのような計算規則は、その規則が成り立つ理由をきちんと理解させた上で、使う練習をさせる
べきだろうか?私は、大抵の場合、つまり、大抵の人にとって、それは違うと思う。
 
たとえば、「学生時代は数学が得意だった」という人に、「(-1) x (-1) = +1となる理由を言える?」と
聞いてみよう。そのリアクションは、次のようなものだと思う。
 
R0 「え?マイナスとマイナスを掛けるとプラスになるの?へー」と言う。
R1 絶句する。それから、考えはじめる。
R2 得意満面で、「いいかい、それはね」と説明しはじめる。
R3 「どうしてそんな簡単なことを聞くんだ?君は中学を卒業してないのか」と言う。
  (それでも、説明をもとめると、スラスラ説明できる。)
 
R0の人は、ほほえましいので、論評をパスします。
 
私は、大抵の「数学が(そこそこ)得意だった人」のリアクションは、R1だと思う。
すると、その人は、「計算の規則だけ覚えていて、その理由を理解していない人」ということになる。
ためしに、そういう人に、「理由がわかってないのに規則だけ覚えてたんだろ?つまり、君は、数学は
できが悪かったんだな」と言ってみよう。(きっと嫌われるので注意してください。)
私は、彼らは、ちゃんと「数学が得意だった(得意な)人」だと思う。
数学が得意なのに、計算の規則だけ覚えていて、その理由を即答できない人は、結構いるのだ。
 
一方、リアクションがR2の人もいる。(R1より少ないと思う。)
こういう人がいるから、やっぱり、「真に数学が得意な人は、規則の理由までちゃんと知ってる」という
ことになるだろうか。そうでもない。と思う。
本当は、その人も、一度は、R1のリアクションをしたことがあるのかもしれない。
だからこそ、今、得意満面になるのではないか。
実際、この手の議論は、「数学が得意な人」によって、あっちこっちで行われている。
(ちなみに、私は、かつてR1で、現在はR2である。)
 
とは言え、「(-1) x (-1) = +1」は、いずれにしても、本来、中学一年の最初に習うことだ。
その理由を心の底からわかっているほど数学がおできになるなら、そのリアクションはR3のように
なるはずだろう。しかし、私は、そんな人を見たことがない。(もちろん、いないとは言わない。)
 
他の問題で試してもよい。たとえば、「分数の割り算って、分子分母をひっくり返して掛けるんだよね。
でも、なぜ?」と聞いてみよう。あるいは、「無理数って何?ルート2が無理数だって、どうやって証明
できるの?」とか。
 
何が言いたいかと言うと、「(普通の意味で)数学が得意な人」の中には、案外、計算規則の理由を
あまり考えずに使っている人が結構いるということだ。
私は、一般論として(例外もあるはず。あくまで一般論として)、計算規則の教育の順序は、
 
 計算規則の理由をきちんと理解させる → 計算練習をさせる
 
より、
 
 計算規則の理由をわかった気にさせる → 計算練習をさせる
 
の方がよいと思う。そして、計算練習を積んだ上で、あらためて、「計算規則の理由」を理解させるのが
よいと思うのだ。