ちょっとSF

20XX年、地球は宇宙人に占領された。
宇宙人は、すべての地球人の健康で文化的な最低限度の生活を保障してくれた。
あまつさえ、彼らは、地球の子供たちに宇宙人大学の入学試験を受けさせ、
点数がよけれが宇宙人大学に進学させ、そこを無事卒業すれば、宇宙人社会での
出世も夢ではないという。
 
で、その試験の内容は、「X君の個人情報」だった。
X君というのは、実在(当時)の地球人で、その食べ物の好み、余暇の過ごし方、
また、子供時代のトラウマなどが問題になるという。
ちなみに、X君は普通の人で、特に重要人物ということではなかった。
 
実際、入学試験がはじまると、
 
問1 X君が好きな料理を2つ挙げよ。
問2 X君の幼稚園の先生の名前を述べよ。
問3 X君は中学3年生のときにAさんに告白してふられたが、
   Aさんの心情を考察し、その理由を200字以内で述べよ。 
 
みたいな問題だった。
この試験に合格すると、確かに、宇宙人社会でエリートになれる(かも)らしいのだ。
 
地球の親たちは色めき立った。
すぐに「X君のすべて」とか「X君の歴史」とか「X君、ナウ」とか、
「まだ間に合う!7日でわかるX君」とかいう本が出版され、子供たちはその本を
読まされた。
親によっては、早期教育ということで、幼稚園くらいから勉強をはじめる家庭もあった。
 
しだいに、評論家たちが批判をはじめた。
いわく、「X君の個人情報を頭に詰め込んだところでナンになる」「X君のことを
知っていてもバカはバカ」云々。
しかし、じゃあ、かわりにどういう勉強をすればいいのかと聞くと、
「それより、生きる力の方が必要」などと言う。
「Yさんの個人情報の方がずっと重要だ」という人も現れた。
Yさんも、ごく普通の人だったのだが。
  
一方、このような状況の中で、ロクな勉強もせず、模擬試験で、楽々と高偏差値を
たたき出す人が現れた。
X君その人である。(X君は高校生だったのである。)
事情を知らない人(彼がX君だと知らない人)は、彼を天才だと思った。
事情を知っている人は、なんとも不公平な気持ちになった。
しかし、どうしようもなかったし、そもそも、X君が自分で宇宙人に頼んだのではない。
宇宙人が勝手にX君を選んだのだ。
  
ただ、X君も、全然勉強しないわけではなかった。
「X君の好きな食べ物」なら勉強しなくてもわかったが、「幼稚園の先生」となると、
すぐには思い出せない。
しかし、ちゃんと本が出ているので、それを読めばすぐに頭に入った(思い出した)。
「Aさんにふられた理由」は、ちょっとわからなかった。
しかし、さっそく出版された「宇宙人大学・過去問集 20XX年」には模範解答があった。
それを読むと、「う〜ん。そうかな?」とも思う。
しかし、よく考えると、確かにそうかも知れない。
「どっちにしても、それを覚えて、宇宙人大学に合格するのが先だ」とX君は思った。
 
だから、X君もそれなりに勉強をしているのである。
 
SFは終わり。
でも、私の話は続く。かも。